遊びから帰るとすぐにパソコンに向かう夫の行動がいつもとちがう。

『mixiに 何んて書くの?』と聞くと 

『ショックが 大きくて今日のことは書けない。

目の前に君がいるのに全く助けることができなかった。

怖い思いをさせて 悪かったね。』

 

はじめての富士川 10月3日土曜 晴れ 気温27度 水量−5.1m

富士川経験のある友人夫妻と インフレ2艇4名にてカヌーツアー

友人が先日体験した、通常の水位より50cm増水しているとのこと。

9時にJR身延線塩沢駅で待ち合わせをして 上流部を10時過ぎにIN。

川面を流れる風は 心地よく 順調なダウンリバー、約一時間でゴールに到着。

 

昼食を 午後から下る下流部の富士宮市のゴール地点で楽しく話しながらとる。

4人で新内房橋から 下流部最大の難所と言われる前釜の瀬と 釜口の瀬を見る。

前釜の瀬は パワーが増しているようで 下流に向かって右岸を行ったほうが安全だが

左側は 増水で岩が隠れ攻めるのに面白いと 夫と友人が話している。

 

釜口の瀬は 中州を挟み左右に流れが分かれる。

右岸は大きくカーブし巨岩に向かい増水のためパワーが集中して白い波が渦巻いているのが 橋の上からもわかる。

水面下はアンダーカットロック。

そこは危険なので 左の大岩方向を狙うと決まる。

 

スタート地点に ラフトが2艇、ちょうど漕ぎだすところで 笑顔で送る。

すぐに本流に入り悲鳴に近い声が聞こえ 中洲越しに 黄色いヘルメットが大きく揺れるが見え 緊張する。

私たちも本流に入り 前釜の瀬を下見する。

長い瀬で 先端部は見えないが 左側を攻めることにする。

 

友人は ビデオ撮影をしてくれるため 初めての川を無謀にも単独でスタートすることになる。

本流に入り左側から順調に岩を避け 中央に瀬を抜けるコースをとる。

 

最後の落ち込みが深く、艇が浮いて着水。

そのとたん 艇が急ブレーキをかけた様に止まった。

 

艇の前部が大きく上流部に向けて回転し 私の足もとに流れ込む激流が 次の光景を予測させた。

このあと横波を受けバランスを崩すと頭をよぎった後は・・・・・、

目の前は白い泡の世界。

 

一瞬強く吸い込まれたがすぐに浮上 波を次々被るが 艇を探す。

夫は 艇に乗っているのですぐに助けてもらえると安心する。

下流を見ると突然夫のパドルが水の中から吐き出されるよう浮上。

 

少し泳いでパドルを回収。振り返ると艇は止まったように流れてこない。

夫は パドルがなく 手を水中で動かし必死の形相。

私は、コントロールが効かない水のパワーに翻弄され始める。

スタート直後の前釜の瀬      枠内、青字の記述は、素浪人Tのものである。

                                                 記述、素浪人T

上流から見て、チキンコースの右側を行くべきであるが、左も行けそうかな、

・・・・と思ってしまい。

私達が先行して進入、左コースへ、

波、岩を避けながら順調に漕ぐ。

最後の大波を越えた  と思ったら、180度向きが変わり艇が一瞬停止、

そして回転 沈。

艇が裏返った。

かみさんが投げ出されてしまった。

私はすぐに再乗艇できたが、非常に強い力で、パドルを波に持ち去られてしまう。

艇は、しばしそのホールに止まる。

少しして、抜ける事ができた。

yonekuraさん 撮影の動画をYouTubeにアップさせていただきました。 

.

ホワイトウォーターから抜け出し 前方を確認すると右手に橋脚が見える。

頭に犀川での橋脚に張り付いた事故の写真が浮かんだ。

 

まっすぐ前方は岸が見え 目標が決まった。

しかし、両手に持ったパドルは 流れをそのまま受け 橋脚に吸い込まれるよう近づく。

体の芯に 冷たい塊が走った。

怖い! 

振り返ると 夫は腹ばいになり 大きくて手を回して艇を進めている。

目が合った 瞳が叫んだ。『行くな!』

.                                     記述、素浪人T

前方を、かみさんが流されている。 

パドルのない私は、手で漕ぐが、追いつかない。

腹ばいになり、両手で漕ぐが なかなか追いつけない。

次の瀬が近づいてくるが、追いつけない。

中州に上陸しなくては・・・・、  かみさんに『中州へ行け』と叫んだが、聞こえのたか?

.

橋脚から2m位左側を流れ ほっとしたとたん 目標の中州の岸を見失う。

なんと真左に見えるではないか。

まずい。

中州を過ぎて右岸の流れに入ると本当にやばい。

しかし、両手に持ったパドルは自分でのコントロールを許さない。

離すべきか、これがあるから波を受けても浮力があるのか 頭の中を思いが駆け巡る。

 

突然 足がついた 反射的に立ち上がろうとした。

しかし、立ち上がることはできない 三度目に足がひっかっかり 顔があげられなくなった。

これは いけないことだった。

..                                   記述、素浪人T

中州に近い所でかみさんが立ったが、水が膝まであるので、危ないと思った。

しかし、すぐ右は釜口の瀬、岩に流れが激しくあたっている。

私が行くまで、何とかその場にいて欲しいと願う。

.

流れに押され、体が回って足を引くことができた。

と、同時に一抱えある岩に張り付いた。

息はできる。

このまま しがみ付こう。

 

次の波で体は180度向きが変わったが 両手にパドルを持ったまま足も開いてしがみついた。

なぜか 上空から自分を見ている自分が 「かえる」のようだよ と言った。

 

あっと 言う間に大波を受け 右岸の流れにさらわれた。

白い世界 上下も左右も何もわからない。

体がねじ曲げられる、重さは感じない。

『息がしたい。』

『死んでなるものか。』

『ここで 死なない。』

その三つのフレーズだけが 浮かんだ。

100回くらい叫んだ気分だ。

 

手がちぎれる とうとう 一本のパドルを離してしまった。

その反動で また 岩に乗り上げた。

すぐに次の波にもみくちゃにされる。

釜口の瀬

.                                     記述、素浪人T

かみさんは立ちあがれずに流され、瀬の入り口の岩にしがみつく。

ちょうど、私は中州に上陸、しかし、かみさんはすぐ右側の瀬の流れに流されてしまう。

やばい、右側はこの激流が岩に当たる直角カーブとなっている。 

あの岩に、ぶつかってしまったら 命にかかわる。

下へ流される事を願い必死に中洲の岩場をよじ登り、走る。

かみさんが眼下を流されてきた、

.

良かった、生きている。

.

瀬の下の岩に捕まろうとするが、また流された、 

私は、近くまで行けたのだが、遅かった。

.

かみさんは見えているのに、私には何もできない。

そう、何もできないのだ。

.

左側の大岩の瀬をパドルなしで下るしかない。

中洲を駆け登り、艇へ。

そこへ、友人艇が近づいてきたので、

申し訳ないが、パドルを一本借りて、釜口の瀬の左側へと進入。

しかし、あせりからか、岩に触れ、沈、その瀬を流されてしまう。

.

少し波が収まったところで 顔をあげると小さな入り江が見えた。

パドルのない手が岩に届いた ここでつかまらなければ 両手をかける 流れは思ったよりある。

 

ここは どこだろう。

岩の上のスペースに体操すわり。

固く握ったパドルから一本一本指をはがす。

大きな岩が目の前の上流部に見え それに沿って波がたっている。

上流に向かって左側に目を向けると そこにも大きな岩が見える。

どうやらこれが中州の岩で 目の前は 艇で下るはずだった左側の大岩の流れのようだ。

 

小さな入り江の前は 川幅がせばまり 流れは穏やかで先ほどとは まったく別の顔を見せる。

はっと気づき 自分の両手両足を触ってみたがどうやら大きな怪我はないようだ。

長い時間 座っているような気がした。

 

音は何も聞こえない。

異次元の世界に流されたのだろうか。

すぐに 幾重にも重なる川音に 鳥の声が横切った。

 

もしかしたら みんなは、私を探しに下流に行ってしまったかもしれない、

寒さとともにまた違う不安が込み上げてきた。

見上げると車が行きかう橋が見える 大声で叫べば誰か気づいてくれるだろうか。

             釜口の瀬 通過コース        緑;素浪人そのT      黄色;素浪人そのU  

.                                     記述、素浪人T

艇につかまったまま流され 瀬をすぎると、友人艇がかみさんの近くにいる事が見えた。

肩の力が抜けて 安心した。

流され瀞場に浮いている一本のパドルを回収した。

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寒さで、奥歯がかみ合わなくなって震えが大きくなった時 大岩の間から黄色い艇が現れた。

その後ろに沈したまま艇につかまって、夫が続いて現れた。

真っ青な顔をして、震えながら友人の奥さんが私を膝の中に座らせてくれた。

彼女の方が、沈をして寒くて震えているのかなと勘違いしてしまった。

 

彼女に、後ろから抱きしめられた時 やっと助かったと思った。

..                                     記述、素浪人T

近くへ上陸し、休憩。

猛烈に頭が痛くなる、声もだせない。

沈して流された後、必ず頭が痛くなるのは何故なのか、   今回の痛みはとてもひどかった。

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友人夫妻に支えられ上陸。 

夫が頭を押さえてうづくまっている。

私は異常にテンションが高くなっている。

痛みも傷もほとんど感じない。

『大丈夫?』と軽い口調で夫に近づく。

早く帰りたくて 夫をうながす。

 

左手に痛みが襲いほとんど パドリングができない。

しばらく 夫のソロに任せていたが 瀬の音が近づくと体が硬直し何かに突き上げられるようにパドリングを始める。

友人が気遣ってくれ何度も近づいてくれる。

いくつかの瀬の後 長いドラゴンの瀬は 2級ということだが増水のパワーを感じる。

早くゴールしたい。

この時 艇が少し遅れて方向修正されることに まだ 気づいていなかった。

もちろん 私の漕艇も鈍く スピードがでない。

..                                     記述、素浪人T

休憩後、頭痛が軽くなったので、再び下流へと進む。

いくつかの瀬を越えたが、

水のパワーがすごく、左右に艇を振られてしまう。

ここで、艇が左右に振られた時、私の修正パドリング動作が遅い事に気づく。

疲れからなのか、反応が遅いのだ。

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目の前は クラッシャーの瀬と呼ばれている。

前方を行く黄色い友人の艇が 大きく落ち込み 波の向こうに二人の頭部が左に振れるが見える。

続いて 私たちも大きな波の中に入る。

艇が横向きになったが いつもならすぐに修正される。

しかし、白い流れが足もとに・・アレっと思った瞬間 流れの中に。

 

すぐに浮き上がり艇を右手で持つ。

しかし、何かに大きく体が引き込まれた。

 

左手のパドルは水の圧力に手から離れる。

目の前は真っ白。

浮かない。

苦しい。

顔のまわりを手で かきむしる 固定してあったサングラスもメガネもいらない。

それでも 出ない。上に浮く感じもなく ぐるぐるまわる。

苦しい。

ヘルメットを必死で引きちぎろうとした。

苦しい、さっき 生き延びたのにここで死ぬのか。

手で必死に水を掻く。

浮くはずじゃないのか。

苦しい。

 

力が抜けたとたん 波のない静かなエディに顔が出た。友人の艇のすぐそばだった。

..                                     記述、素浪人T

最後のクラッシャーの瀬

早く越えて上陸したいと焦ったのか、又しても沈してしまう。

しかも、水中に落ちた身体が水面にでない、引き込みの流れがあるのだろう。

まぁ、その内に浮くと、思って水中を流されていたが、

なかなか浮かず、息が続かなくなりそう。

グッと息をこらえて耐える。

カヌー体験で、初めての自分の生命の危険を感じた。

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突然、空が見えた、

身体が回転していたのだろうか、風景は斜めに見える

自分の居場所、身体の向きが認識できない、

しかし、目の前には大波が、

あわてて、息を吸った瞬間、又身体は水中へ・・・・、

まもなく身体は浮き、流れもゆるやかに。

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かみさんは、友人艇につかまる、良かった。

艇に、再乗艇。

しかし、身体が重く、乗ることができない。

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渾身の力で再乗艇することができた、

かみさんは、友人艇につかまったまま、近くの浜に上陸

すぐ下流の浜についた私は、漕ぎあがろうとするが、

力がはいらないのか、艇は進まない。

かみさんを、友人艇に預ける。

ゴールはすぐ近くだったので、上陸


 

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カミさんを、2度も助けてくれた、友人には、感謝しても感謝しきれない思いである。

そして、かみさんが、軽い打撲と擦り傷だけで済んだのは、幸運の至りであった

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